[感想]鷺と雪/北村薫

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鷺と雪
北村 薫 著/文春文庫
お薦め度:★★★☆☆

昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ<ベッキーさん>シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。


ベッキーさんシリーズこれにて終了。鮮やかすぎる幕切れ。

前作「玻璃の天」を読んだ時にこんな感想を書きました。

『シリーズ最終となる「鷺と雪 」では、戦争の足音がいよいよすぐそこにまで迫って来るのでしょう。直木賞受賞作となった作品ではありますが、おそらく読むことはないと思います。』

(くわしい感想はここ

ですが。

ですがね。

読んでしまいました。

前作でひたひたと忍び寄る戦争の足音を感じていたので、今作はどうなることかと思いましたが、思いのほか戦争を意識することはありませんでした。

時折描かれるどんよりした曇り空に、陰鬱な昭和初期の空気を感じることはあっても、気分がめいるようなこともなく、「不在の父」「獅子と地下鉄」と読み進み、そうしてたどりついた最後の短編「鷺と雪」。

シリーズ最後の作品だというのに、このままあっさりと終わってしまうのかしらん? などと思ってしまったのは私の浅はかさゆえ。

最後の最後にがつんとやられました。

幕切れという言葉がありますが、文字通りのあまりにも鮮烈な幕切れに、鳥肌の立つほどの衝撃を受けました。その刹那、主人公の英子さんの隣にたたずんで、窓の外の真っ白な雪景色に目を奪われている自分の姿を見たかのような錯覚を覚えたほどです。

 

昭和初期、あらがうことのできない時代のうねりに呑みこまれていく人々の姿が、なぜか平成の現在の世に重なって仕方ありません。

2009年に単行本として発表された本作に、今の世相が見えていたとも思えないのですが、あるいは作者の北村先生には、ベッキーさんのごとく未来を見通す慧眼があったということなのでしょうか。


前を行く者は多くの場合――慚愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかも知れません。そして、次に昇る日の、美しからんことを望むものかも――。どうか、こう申し上げることをお許し下さい。何事も――お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです

ベッキーさんの言葉が、脳裏でちらちらと点滅しています。