[感想]ルー・ガルー 忌避すべき狼/京極夏彦

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分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(上)
分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(下)
京極 夏彦 著/講談社文庫
お薦め度:★★★★☆

「狼に―出合うって?」。忌避すべき事象の暗喩でしょう、と雛子は言った。近未来。少女・牧野葉月にとって携帯端末こそが世界の総てだった。何もかもが管理された無味無臭なはずの世界で、血生臭い連続殺人が少女たちを脅かす。行方不明の同級生。祐子に忍び寄る“狼”の影―。シリーズ第一弾、初の文庫化。(文庫裏表紙より)


青春、SF、アクション、ミステリー、なんでもありの爽快物語

時は近未来。モニターの中の世界こそがすべてと思いこみ、現実世界のほうが嘘っぽく感じられてしまうような時代。人々との接触が苦手になってしまっている14歳前後の子供たちは、週に1回「コミュニケーション研修」を受け、かろうじて外の世界との接触を保っています。

高度にネットが発達した社会なのだろうな、とおぼろげに理解しながら読み進めるわけなのですが、これがもう見事なくらいにつかみ所のない世界。少女たちの希薄な人間関係にシンクロするかのようにして、序盤はふわふわと不安定で、不安感をあおるような文章が続きます。

身近におきている連続殺人事件でさえ、人が殺されたという現実味に乏しく、何かが変だなと感じる少女たちは、自分で自分のことすらよく理解できていない有様。

けれど、時がゆっくりと流れているのは前半部分だけ。

誰とも知れぬ殺人犯に、知らず知らずのうちに少女たちが追い詰められて行く上巻の後半以降は、物語が一気に加速します。

少女やその他の登場人物たちが自分の意志で動き始めるようになるにつれ、前半ではあんなにもおぼろだった世界が、くっきりと目の前に立ち上がってきます。

追って、追われて、追われて、追って。

ハリウッド映画もびっくりの後半は、物語の構成としてはどうなのよ、と思うほどの荒っぽさではあるのですが、不思議と安っぽい感じがしないのは、おそらくはここに至る過程で「人を殺すのはどうしていけないことなのか」「生きるとはどういうことなのか」といった考えが、そこここにちりばめられていたからなのでしょう。

一見すると、京極夏彦さんらしさの薄いライトノベル感覚の小説のように感じるのですが、圧巻の読み応えはやはり京極さんならではです。

好き嫌いがわかれる作品かと思いますが、個人的にはこういうの、嫌いじゃないです。

まもなく発売になる続編も楽しみです♪

 

余談ですが、読んでいる途中でなぜか恩田陸さんの「上と外」を思い出しました。