[感想]小説あります/門井慶喜

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小説あります
門井 慶喜 著/光文社
お薦め度:★★★☆☆

しょせん小説なんてお話じゃないか。絵空事じゃないか。廃館が決まった文学館。存続のために手を尽くそうとする兄。その兄を、家業たる実業の世界に呼び戻そうとする弟。行方不明になったままの小説家と、積極的にかかわろうとしない親族。交錯し、すれちがう、いくつもの想い。どうすれば伝わるだろう。いかに素晴らしいのか。人生に不可欠か。(「BOOK」データベースより)


小説好きの心をくすぐる巧妙な謎とテーマ

殺人事件のない、日常のささやかな謎をあつかったミステリー。

文学館の嘱託として働いていた老松郁太が、偶然にも見つけた遺稿集。それは30年前に失踪した作家 徳丸敬生のものだったのですが、作家の死後に発行されたはずの遺稿集になぜか作家自身の手によるサインがあったことから、本作の「謎」は始まります。

なぜ遺稿集にサインが? そもそも誰がこの本を古本屋に売ったのか? 本にまつわる謎が謎を呼び、物語は進みます。

けれどこの作品には実はもうひとつのテーマがあるのです。「人はなぜ小説を読むのか」。

本好きには、これがまたたまらないテーマだったりするのです。実のところ、本作の遺稿集のサインの件はとっかかりとしては面白かったのですが、最後まで読みとおす原動力となったのは「なぜ小説を読むのか」という、こちらのテーマのほうでした。

けれども、残念ながら、テーマの魅力ほどには登場人物に魅力はありませんでした。

魅力がないというか、キャラが描き切れていないといったほうがいいでしょうか。

かつて切れ者のビジネスマンであった頃の老松郁太の武勇伝が語られたりもするのですが、それもどこかとってつけたかのような雰囲気で、それによって郁太のキャラに深みが増すということもなく。

老松兄弟&姉の三人での会話もどこかぎこちなく、読んでいてふと意識がほかにもっていかれてしまうこと数度。

テーマが良かっただけに、登場人物たちがもうひと踏ん張りしてくれていたらなぁ、と思うと余計に残念でなりません。

本好きの方にはお薦めしますが、そうでない方が読むとあまり面白くない……かもしれません。ご注意を。