[感想]イン・ザ・プール/奥田英朗

イン・ザ・プール (文春文庫)

イン・ザ・プール
奥田英朗/文藝文庫 お薦め度:★★★★☆

どっちが患者なのか? トンデモ精神科医伊良部の元を訪れた悩める者たちはその稚気に驚き、呆れ…。水泳中毒、ケータイ中毒、ヘンなビョーキの人々を描いた連作短篇集。(C)「MARC」データベース


精神科医 伊良部を主人公とする連作短編集……、なのだけれども、この物語の視点は伊良部のそれではなくて、各短編ごとに登場する患者のものになっている。

物語はすべからく主人公の視点(もしくは神の視点)で書かれるもの、という固定観念にがんじがらめになっている私としては、まずこの部分で、おや?と思う。

けれどこの程度の おや?はまだ序の口。

なんたって、伊良部のキャラクターが強烈なのだ。

子供のように自由奔放な伊良部は、それゆえに何事にも動じることがない。

もし自分がこういう性格だったら、きっと今より、生きていることが楽になるだろうなぁ、と思わずにはいられない。そうして、そう思ってしまったが最後、あとはもう伊良部先生の虜となってしまう。

一話ごとに登場する患者たちももちろん個性的で、彼らが繰り広げるドタバタにも近い日常生活は、それはそれで楽しいのだけれども、本書の一番の魅力は、なんといっても

主人公の 伊良部につきる

と言えるだろう。

続編にあたる空中ブランコも、全く同じ趣で、あきることなく読み続けられる。

楽しくて、うらやましくて、切なくて、そうして心がほんわかと暖かくなる小説。お薦め。