[感想]オーデュボンの祈り/伊坂幸太郎

 オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り
伊坂 幸太郎/新潮文庫 お薦め度:★★★★☆

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか? (文庫裏表紙より)


惜しい、ひじょーに惜しい!
読み終えた瞬間にそう思った。

物語の舞台、登場人物、彼らを取り巻く様々な状況、そして物語そのものに流れる独得の雰囲気……。どれひとつをとってみても、かなりの傑作となりえる要素を持っていた。事実、読んでいる途中は「この作品には、きっと★5つをつけるに違いない」という確信に近い思いで、本書を読んでいた。

が。

読み終えたときには、★がひとつ減ってしまった(ひとつ減っても★4つ。かなりのものではある)。物語の収束を焦るあまり、後半部分がやや荒削りになってしまったように感じたのだ。デビュー作だから仕方がないのだろうが、この倍のページ数を費やして、もっともっと物語の世界を丁寧に描いてくれたなら、それこそ驚くような傑作に仕上がっていたような気がしてならない。

第5回新潮ミステリークラブ賞を受賞しているので、この作品はやはり「ミステリー」に分類されるのだろうが、謎解きの楽しさよりも、登場人物たちの心の葛藤こそが、この作品の魅力だと思う。喋るカカシや、100年以上外界から断絶されている島など、あまりにも現実離れした設定なのだが、にもかかわらず、主人公の僕(伊藤)の存在が、作品に圧倒的なリアリティを与えている。

現実から5センチほどずれたところで成立している物語。
そんな危うさを秘めた小説が大好きな私にとって、この作品は私の好みにどんぴしゃりだった。

また物語全体に漂う雰囲気も『ホットな村上春樹』もしくは『村上春樹と宮部みゆきを足して2で割ったような感じ』で、心地よいことこの上ない。

「このミステリがすごい!」で評判になった重力ピエロや直木賞候補になったチルドレンなど、話題作が目白押しなので、機会があればぜひまた読んでみたい。

こてこてのミステリを求めている人にはちょっとどうかと思うが、ミステリとしての緊迫感とふんわりとした優しさの両方を得たい方にはオススメ。