[感想]魔性の子/小野不由美

 魔性の子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

魔性の子
小野不由美著/新潮文庫 お薦め度:★★★★☆

教育実習のため母校に戻った広瀬は、教室で孤立している不思議な生徒・高里を知る。彼をいじめた者は”報復”ともいえる不慮の事故に遭うので、”高里は崇る”と恐れられているのだ。広瀬は彼をかばおうとするが、次々に凄惨な事件が起こり始めた。幼少の頃に高里が体験した”神隠し”が原因らしいのだが…。彼の周りに現れる白い手は?彼の本当の居場所は何拠なのだろうか?(文庫裏表紙より)


人気の十二国記シリーズが講談社から出版されているせいか、はたまた、この作品が出版されたのが、十二国記よりも前の段階だったからか、とにかくこの作品自体には、どこをどう調べてみても「十二国記外伝」といったような記述がない。

けれども、これはれっきとした外伝である。一ページ目の「雪が降っていた。重い大きな切片が……」の文章を読んだだけで、あぁ、これは「風の海 迷宮の岸」に繋がるのだな、とわかる(実際、一言一句まで同じ文章がしばらく続く)。

だから、祟ると恐れられている高里のからくりもわかっていれば、追い詰められた末に何が起こるのかもおおよそ見当がつく。すべてを知った上で、この作品を読むと、これは決してホラー作品などではないと思えるし、それよりもむしろ、高里と広瀬の心の葛藤のほうにこそ興味を覚える。ただ、その肝心の心の動きが、やや説明調になってしまう傾向があり、もう少し深みがあれば、さらに良い作品になったのに、と思わないでもない。

いずれにしても、私は十二国記を知ったうえでこの作品を読んだので、かなり楽しむことができたが、十二国記を知らないで読んだ人はどのような感想を持つのだろう。次々に起こる凄惨な事件や高里の周囲にあらわれる白い手の描写などを読んだなら、きっと背筋がぞぞっとして、これはホラー作品だ!と思うだろう。ホラーだ、ホラーだ、ホラーだと思い続けてのあのラストシーン。あのラストを読者ははたしてどう感じるのだろう。ご都合主義の尻切れトンボ……そう感じる人もいるような気がしてならない。

というわけで、この作品に限っては読む順番というものが、かなり重要だ。十二国記の前に読めば、ホラー作品としての醍醐味となぞの解明という好奇心をそそる出来事を体験できる。十二国記を読んだあとならば、高里と広瀬の心の動きを丁寧に追いかけることができる。どの順番で挑戦するかは……あなたのお好みしだい(^o^)/

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とまぁ、ここまではごく普通の感想なのだけれども、その他ちょっと思ったことがあるので付け加え(でも、こんなこと思う人って、すっごい少数派だと思う、たぶん)。

自分の本当の居場所をさがし求め続ける高里を、ある意味悲しい存在として描いているこの作品だが、私は彼の家族こそもっとも不幸で悲しい存在だったのではないかと、そう思えて仕方がないのだ。高里を冷たく突き放し、あたかも薄情そうに描かれている母親にしたって自分の子供が可愛くないはずがない。十二国記側の世界観から見れば、高里はこちらの世界に紛れこんでしまった○果ということになるのだろうが、それはあちら側の論理。普通の世界で普通に暮らしている家族にしてみれば、可愛い子供がわけもわからぬまま神隠しにあい、戻ってみれば、何かが以前と違っている……、そんな悲しいことってあるだろうか。

この作品を読む上では、そこまで考えても仕方がないと、そう思いはするのだけれども、しっくりと来ないものが心の底に残ってしまったことは否定できない。