[感想]椰子・椰子/川上弘美

 椰子・椰子 (新潮文庫)

椰子・椰子
川上弘美/講談社文庫 お薦め度:★★★★☆

妊娠中のもぐらと一緒に写真をとったり、町内の縄文人街を散歩したり、子供たちを折りたたんで押入れにしまったり、中くらいの災難に見舞われ一時乳房等の数が二倍になったり。奇想天外でヘンテコで不気味な出来ごとが、次々と繰りだされる日常を、ごく淡々と送る女性の、ユーモラスな春夏秋冬。一足踏みいれたらきっととりこになる、とっぷりと心地よい「椰子・椰子」ワンダーランド。(文庫裏表紙より)


いやあ、それにしても妙。妙すぎて何だか気持ちのいい小説。
川上弘美の小説というのは、えも言われぬ独特の雰囲気があって、パスカル短編文学賞を受賞したころから注目をしている作家さんなのだけれども、この作品中の雰囲気といったら、幻想的なんて生やさしい言葉では表し切れないくらいだ。

作者自身「あとがきのような対談」で、もともとは夢日記から始まった作品で、半分くらいは実際の夢を元に描いていると言っている通り、作中に登場する人物たちも小物も状況設定も、何もかもがとってもシュール。主人公が「一緒に冬眠させた子供たちが、二倍の大きさにふくらんでいる。湿度の関係か?」などと、よくよく考えたら(考えなくても(^^;))ギョッとしてしまうような状況も、淡々とした日常生活の一こまとして表現されて行く。

そうして物語を読み進めるうちに、やがて読み手は作者の術中にはまり「ああ、そんなこともあるかもしれないなぁ」と何とはなしに納得してしまう。恐らくは私たち自身、自分の夢の中では、何度となくこの物語にあるような不条理な場面に出くわしているものだから「上座にパンダが一匹いるのが、どうしても解せない」などと唐突に言われても、そうだよね、うんうん、と納得してしまうのだろう。幻想的と言えば、小川洋子の描く作品も幻想的ではあるが、それは練りに練って作り出されたガラス細工のように繊細な世界であるのに対して、川上弘美の描く世界はもっと根元的な、DNAの記憶に迫るかのような骨太の幻想性が満ち満ちているのである。

それでも下手な作家が描いたならば、読むに耐えないくだらない世界になってしまうのだろうけれども、不可思議なりにきっちりとまとめ上げているあたり、さすがは彼女の力量のなせるわざだと、私などは心底感心してしまう。勇気が出たり、感動したりする作品ではないけれど、この心地よい幻惑感は一読の価値あり。