[感想]ちょちょら/畠中恵

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ちょちょら
畠中 恵 著/新潮社
お薦め度:★★★★☆

兄上、なぜ死んでしまったのですか?千穂殿、いま何処に?胸に思いを秘め、困窮する多々良木藩の留守居役を拝命した新之介。だが―、金子に伝手に口八丁、新参者には、すべてが足りない!そして訪れた運命の日。新之介に、多々良木藩に、明日はくるか。(「BOOK」データベースより)


新米江戸留守居役 新之介の成長記

「ちょちょら」とこれまた聞き慣れない言葉で、だからこそ、この物語の何か核心に触れる言葉なのかと思っていたら、そんなことはまったくありませんでした。ページをめくってすぐの部分にこう書いてありました。

『ちょちょら』 弁舌の立つお調子者。いい加減なお世辞。調子の良い言葉。

さて「ちょちょら」と名付けられたこの作品は、兄の死によって図らずも江戸留守居役をつとめることとなった、間野新之介の奮闘記&成長記といえるかと思います。

御家老様に「平々凡々」では言い足りなく「平々々凡々々」と称されるほど、どこか頼りない新之介は、当初は古参の江戸留守居役たちにからかわれたりもするのですが、その素直な心根が徐々に認められ、やがて皆の信頼を得ていきます。

慣れない江戸留守居役の仕事の中で、最大の難問として立ちはだかるのが「お手伝い普請」なるもの。幕府が諸大名に対して言いつける公共工事のようなものなのですが、これには莫大なお金がかかるため、各藩は何とかこの「お手伝い普請」から逃れようと躍起に。中でも特に財政が逼迫している多々良木藩の新之介は、ことさら心を痛め、秘策を考えることに。

どうしても憎むことが出来ないという人間がこの世には確かに存在するものですが、新之介はまさしくこのタイプ。裏表なく、心の中を正直に語るその姿に、本人も知らないうちに多くの味方を得ていきます。そうして、読み手もいつしか新之介のその性格に笑みを浮かべ、彼を心の中で応援するようになるのです……が。

実は素直に頷けない部分もありました。


「幕閣が、水害に苦しむ民を救おうとされるのは、分かります」
 しかし。
 だからといって、もうどうしようもないほど借金に苦しんでいる多々良木藩が、代わりに潰れなくてもいいはずであった。他藩とてそうだ。


「つまり、幕閣から正式に江戸留守居役達へ申し渡される、その時点までが勝負なのです。そこまでの間に、二百六十五藩全てが何らかの形で、お手伝い普請から逃れてしまえばいい」


たとえば燃えた江戸城門の修復といったような、絶対にやらねばならぬ急ぎの普請ではない。切迫した必然性は無いのだ。

元々は震災前に書かれた作品ですから、こういう些細なことにこだわってしまうのは良くないと、そう思いもするのですが。それでもやはり、震災前と後では自分の中の価値観が何か決定的に変わってしまったのでしょう。

新之介の発言のこの部分が、この部分のみが、何かざらりと心の中にひっかかって、嫌な違和感を覚えてしまったのは事実です。

ですが、これはまったくもって私の個人的問題。

100人いれば100様の受け取り方があるでしょう。そうして、新之介の一生懸命さには誰もが応援のひとつもしたくなることでしょう。

何とはなしに思わせぶりな終わり方をした本書。それゆえやや結末が弱くなってしまったような気がしないでもありませんが、もしもこれが次回作・シリーズ化への伏線なのだとしたら、歓迎すべきところ。

愛すべきキャラクターの新之介が大活躍する姿を、ぜひとも今後も見続けていきいたいところです。

シリーズ化熱烈希望の作品です。