[感想]宮部みゆき/桜ほうさら

032001

お薦め度:★★★★☆

苦みのきいたストーリーなのに、なぜか爽やかな読後感

とにかく装丁の美しさに心を奪われる「桜ほうさら」。

淡い桜色の表紙、本を開けばすべてのページに桜の花びら、そして「桜ほうさら」の優しい語感のタイトル。電子書籍派の自分も、この作品にばかりは紙の書籍の底力というものを見せられた気がした。

装丁のイメージに引っ張られるようにして読んだ本作は、実はふんわりとした甘い作品ではない。

ぬれ衣を着せられたまま亡くなった父。その父の汚名を返上しようと、母親になかば説き伏せられる形で江戸に出て行く主人公の古橋笙之介。江戸留守居役の坂崎の力添えを受け、父の死の裏側にある陰謀に迫っていく……と書けば何やら威勢のいいストーリーのようだけれども、この笙之介、実は少しばかり気の弱い、実直なお人好し。

長屋に住まい、写本を作ることを生業にし、窓辺から見える桜の木をぼんやりと眺めながら日を送っている。

そんな笙之介の回りで起こる日常の小さな出来事。元来のお人好しが顔を出し、それらの出来事に関わりを持って行くうちに、少しずつ成長して行く笙之介。和香さんとの淡い恋も話に彩りをそえる。

いっこうに進まぬ本筋の話。父の汚名の件はどうなったのだと、こちらがじれて来る頃に、物語は思わぬ展開を遂げる。

宮部作品らしく、爽やかな読後感に包まれる作品ではあるのだけれども、ストーリー自体はかなり苦みがきいている。

父は亡くなり、お家は断絶、母や兄とも折り合いが悪く、江戸では浪人の身。普通に考えてみるならば、悲観的になってもおかしくはない身の上である。にもかかわらず、そのことが物語に暗い影を落としたりしないのは、ひとえに笙之介を取り巻く人々の温かさ、人情のなせる技であるのだろう。また、時代ものであるからこそ、人々の人情を素直に信じられるという側面もある。

これが現代物だったら……、そこに救いを見いだすのはかなり難しかったのかもしれない。

近ごろ、宮部さんが時代ものを好んで書くのは、このような部分にもその理由の一端があったのだろうか、などとわかった風になって考えてみたりする。

ついでに、笙之介と和香のこれからも考えてみたりする。

けれども私の想像力は及ぶべくもなく、これは宮部さんに続編を書いてもらうしかないな、という結論にあっさりと到達する。

まだ笙之介たちとわかれるには早すぎる。もっともっと彼とその周囲の人たちの生き生きとした生活をのぞいていたい。そんな気持ちにさせてくれる、素敵な素敵な物語。

お薦め♪