[感想]夢を売る男/百田尚樹

031301

お薦め度:★★★☆☆

さらさら読める出版業界の裏話

さてと。

あまりにさらりと読み終えてしまったものだから、、いざ感想を書こうと思ったら、えーと、うーんと、何だか何も思い浮かばない。

小説形式のビジネス書というものを時々みかけるが、本作「夢を売る男」の全体としての印象もそれに近い。物語にすることで、すべてをオブラートに包み込んではいるものの、あるあるネタが満載で、現実にあったのではないかと思われるような内容がそこここに散りばめられている。

物語の舞台は「丸栄社」なる出版社。一般の人々から原稿を集めては、ジョイント・プレス方式での出版をもちかける。ジョイント・プレス方式とは自費出版に毛が生えたようなシステムで、著者と出版社とが費用を折半する形で本を出版するもの……ではあるのだけれども。

「クズ」のような原稿を大袈裟にほめちぎり、相手の自尊心をくすぐり、そうして丸栄社に利益が出るよう高額の費用を要求するのだ。それでも相手は、自分の本を出せるとあって、丸栄社に感謝こそすれ、悪い感情を抱いたりはしない。それもこれも敏腕編集者である牛河原のなせる技だ。

更に牛河原は後輩に仕事を学ばせる形で現状を語る。プロの小説家の滑稽さ、古い慣習にとらわれた出版界の窮状。そうしてその矛先は一般読者にまでも向いて来て、

「百年前はテレビも映画もなかった。その頃はおそらく、小説は人々の大きな娯楽の一つだったろう。しかしこの二十一世紀の現代で小説を喜んで読むという人種は希少種だよ。いや絶滅危惧種と言ってもいいな」

ゼ、ゼツメツキグシュですか。

実はこの作品の中で「絶滅危惧種」の言葉が一番心に残った。変な残り方をした。

出版界に必要以上の恨みを買わないように腐心したのかどうかは知らないが、事実を淡々と述べている印象が強い本書は、感情移入というものがしづらい。だったら面白くないのかと言えばそういうこともなく、時折読者の心をちくりと突き刺す「針の先型作品(←勝手に名付けてみた)」に仕上がっている。

好奇心旺盛な人にお薦め。