[感想]黄色い目の魚/佐藤多佳子

黄色い目の魚 (新潮文庫)

黄色い目の魚
佐藤多佳子/新潮文庫 お薦め度:★★★★☆

イヤなことばかり。絵もサッカーも上手くいかない。でももう逃げない。自分だけのモチーフを見つけたから。舞台は鎌倉、揺れる2人の16歳を描く長編。(C)「MARC」データベース


ひと言で表現するならば村田みのりと木島悟の恋愛物語……、

……ってのは違うな。

いずれにしても、主人公はこの二人。ほぼ一章節ごとに、村田の視点と木嶋の視点が交互に入れ替わりながら、物語は進んでいく。

小学生頃から始まって、高校時代をメインに、迷いながら、傷つきながら、それでも一生懸命にまっすぐに生きていくふたり。友達以上、恋人未満のちょっと不思議なバランスの中で、二人はそれぞれの高校生活を送って行く。

前半部分は、ややストーリーに深みがないように思えて、なかなか物語の世界へ入り込めなかった。

けれど。
後半に入ってから、ふいに物語の中へ落っこちた。引き込まれたというよりも、落っこちたというような、唐突な感覚で物語にのめりこんでしまった。

前半部分があったからこその、後半部分だと思う。

漫画家 兼 イラストレーターの「通ちゃん」を叔父に持つ村田。絵を描くことが大好きなサッカー部の少年木島。通ちゃんと村田と木島の三人に、つかずはなれつの距離でかかわりあっていくことになる女性「似鳥ちゃん」。

恋愛小説という言葉は、あまりにも陳腐すぎて、この作品には当てはまらない。もっと純粋でまっすぐで、ガラスのように透明で、朝日のようにキラキラと輝いている日々。切なさと愛おしさが、絶妙のバランスで織り込まれている。

この良さを語るのは、正直、難しい。実際に読んでみて欲しいという言葉しか見つけられない自分がもどかしい。

毎日の生活に何となく疲れて、ほんのちょっとの優しさが欲しいと思った時……、この作品は、きっと読んだ人の心にに何かを残してくれるはずだ。

余談だが。
私は、サッカー部の木島よりも、イラストレーターの通ちゃんのほうに魅力を感じてしまった。若い人が読んだならきっとそんなことはないんだろうな、と考えたら、ふいに自分の歳を自覚してしまった(苦笑)