[感想]一瞬の風になれ 第一部・二部・三部/佐藤多佳子

お薦め度:★★★★☆

ああ、心臓に悪い。試合のシーンはこっちまで緊張しちゃう

2007年に吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞したかなり有名な作品……だと思うのだけれども、その当時はなぜか読む気がしなくって、何を今更のこの時期にKindel版での読書。

ひとことで言うならば、高校の陸上部を描いた青春スポーツ小説。

努力の天才にして主人公の新二と、天性のスプリンターとしての才能を持つ連。幼なじみの二人は高校で陸上部に入る。どこまでも速くなるという一点の目標に向かって走り続ける彼ら。そうして作品そのものも、変な小細工をすることなく、ふたりの目標と目線を合わせる形でその一点へ向かってひたすら描かれていく。


とにかくもう「爽やか」としか言いようがない。

これだけ長い作品ともなると、あそこの部分が良かった、ここの部分がもうちょっと、とかあれこれ細かな感想を持つものなのだけれども、そんなことを考えている余裕もなかった。

新二たちと一緒に100mやリレーを走っているかのような気分でもって読んだ。ただひたすら読んだ。次から次へとページをくった。

そしたら……、読み終えていた。

そんな感じ。頭の中であれこれ感想をこねくり回す暇もなかった。

体力のない連がきつい練習をしているシーンでは、気づけば自分も体に力が入っているし、新二が自主的に練習をしているシーンでは、一緒になって坂道を走っている気分。気づけばなんだかどっと疲れていて、なんで本読んでいるだけなのに体力消耗してるの? と自分で自分を不思議に思うありさま。

そうして更にすごいのが試合のシーン。

新二の緊張が、興奮が、胸の高鳴りが、そのまま自分と重なって、なんだか鼓動すらはやくなって来るのだ。

とりあえずきりのいいところで、とばかりに競技シーンを読み終えてから布団に入った時なんて、まったくもって寝付けなくなってしまって、1~2時間ほど苦しい思いをした。

なんだろうね、自分が走っているわけでもないのに。

ただひたすら練習をし、競技に出場し、結果をみつめ、そしてまた練習。その繰り返しの中で、1年生だった新二が2年生になり、そして3年生になって行く。ともすれば単調になってしまいかねないストーリーなのに、その圧倒的な臨場感が読み手を離さない。離さないどころか、本の世界に引っ張り込んで、競技場のレーンにさえ立たせてしまいそうな勢いだ。

陸上経験がないところか、スポーツ全般があまり好きでない自分が読んでさえこの興奮なのだから、スポーツ経験のある人が読んだなら、この作品はどれだけすごい威力を発揮してしまうことだろう。

いくら長い作品でも大丈夫、というすべての人にお薦め。