[感想]人質の朗読会/小川洋子

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人質の朗読会
小川洋子 著/中央公論新社
お薦め度:★★★★★

遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。(「BOOK」データベースより)


祈りにも似た静謐さの漂う作品

小川洋子さんの作品を久しぶりに読みました。

ずいぶんと久しぶりだったので、彼女の作品がもつ独特の気配、チリの降り積もる音さえ拾い上げてしまいそうな静寂や、それでいてそこかしこに漂う穏やかなぬくもり……そういったものが消えてしまっていないか心配だったのですが、大丈夫、健在でした。

地球の裏側にある国で、反政府ゲリラに拉致されてしまった日本人たち。その人質生活の中で彼らはお互いの物語を語り始めます。

そのひとつひとつは、どこにでもありそうな平凡な日常なのですが、微妙に現実と幻想との境界線が揺らいでいます。それはちょうど、色の違う水彩絵の具が、紙の上で出会った時のあの滲みに似ています。お互いがお互いを浸食しつつも、決して最後までそのふたつは混じり合うことがないのです。

7人の人質たちの7つのお話(+1話)ですから、それぞれの話には何の関連性もありません。まるで短編集のようにしてひとつひとつの話は展開されて行きます。けれども読み手は、この作品の冒頭で、人質となった7人全員が、犯人の仕掛けた爆弾によってすでに亡くなっていることを知らされています。この切ない事実が、ばらばらであるはずの7つ(+1)の話をゆるやかにひと括りにして、絶妙なバランスでもって作品を作り上げています。

上手いです、本当に上手い。

誰もいない部屋で、ひとり静かに読みたい小説です。