[感想]鹿男あをによし/万城目学

お薦め度:★★★★☆

鹿の存在感に圧倒され、生徒の健気さにホロッとする

私が高校生の時の修学旅行は京都・奈良だった。どちらも古くからの歴史が脈々と息づく地域だけれども、京都がどこか商業的なのに対して、奈良は驚くほどに手つかずの自然体の場所だった。

素人目にはただの大きな石の塊にしか見えない石室を見学した後、駅へ向かって仲間と歩いた。馬鹿話をしながら歩いていたのだと思うのだけれども、歩けど、歩けど、景色はほとんど変わらず、見果てる限りの大地と青空だった。

なんかわからないれど、奈良ってすげぇと思った。

そんな修学旅行の思い出が、奈良を舞台にした本作「鹿男あをによし」を読んでいたら、ふいに胸のうちに湧いてきた。


主人公の「おれ」は奈良の女子校に二学期の間だけという条件で産休の補助教師として赴任する。担任したクラスの生徒たちと上手くいかず、もやもやとしていたある日、奈良の鹿に話しかけられる。

「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」と。

鹿に選ばれし先生は、日本を救うためとも言える使命を帯びて(というほど先生は格好良く立ち回ったりはしないのだれども)、最初は嫌々ながら、やがてはとある事情から積極的に、その使命を果たそうと右往左往しながらもありったけの頑張りを見せる。

奈良の壮大な景色、心優しい同僚たち、勝ち気だけれども健気な女子生徒、人前でポロポロと糞をする鹿、果ては狐と鼠も加わって、物語はスピードを速め、それとともに味わいのある色合いを見せ始める。

最初、やや退屈かな?と思いもしたのだけれども、しゃべる鹿が登場して以降はもう先が気になっての一気読み。

印象的なシーンがあちらにもこちらにも転がっていて、まったくもって読者を飽きさせない。そうして、読み終えた後の爽快感。それも冬の朝に澄んだ空気を体いっぱいに吸い込んだかのような爽やかさが心をくすぐる。

まさしく面白さと爽やかさを兼ねそなえた絶妙なファンタジー小説。鹿の圧倒的な存在感にも要注目ですぞ。