[感想]海辺のカフカ/村上春樹

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上)
村上春樹著/新潮社 お薦め度:★★★★★

15歳の誕生日、少年は家を出た。一方、ネコ探しの老人・ナカタさんも、西へと向かう。暴力と喪失の影を抜け、世界と世界が結びあうはずの場所を求めて-。


 海辺のカフカ〈下〉

村上春樹久々の長編ということで、大いなる期待をもって読んだ。

で、まず感じたのは、いつになく登場人物たちにリアリティがあるということだった。いつもの春樹さんの小説は、いうなればそこに確固たる「雰囲気」のようなものが存在し、その雰囲気を読者に伝えたかいがために、作者が自在に操る「駒」のような存在として、生命感も現実感も希薄な人物たちが登場することが多かった。しかし、この小説では違っていた。

登場人物たちはみな、一癖もふた癖もあって、現実世界ではなかなかお目にかかれないような人もいるのだけれども、彼らが妙に生き生きとしていて、物語のほうが彼らにひっぱられているかのような感覚さえあったのだ。特にナカタさんと星野さんコンビの描写は「えっ、これが春樹作品?」と思わされるような生命感に満ちていて、主人公の15歳の少年よりも、ナカタさんのキャラに一番ほれ込む形となった。

さて、肝心のストーリーのほうなのだが。
これはこの作品を読む人によって、また、読んだ時の自分の心の持ちようによって、印象ががらりと変わるタイプの小説ではないかと思う。春樹さんは、この小説を新聞・雑誌などで宣伝するにあたって、ストーリーには決して触れないことを強く求めたそうだが、確かに先入観のないまま、まっさらな気持ちで読んだほうがいいような気がする。

ストーリーそのものは、いつもの春樹さんに比べると、ややエンタメ系に走っている感じがあり、その分わかりやすいとも言える。が、そこはそれ、根っこの部分は純文なので、提示されたひとつひとつの出来事すべてに、きっちりとした解決が示されているわけではない。中途半端に放り出されたままの出来事も数多くあり「結局あれって何だったの?」とつい考えたくなってしまう部分もないことはない。

けれども、きっちりとした解決や方向性を示されずに終わった部分があるからこそ、私たちはこの小説をいかようにも解釈しえるのだし、ベストセラー小説とはまた一味違った「自分だけの小説」として、いつくしむことができるような気がする。

圧倒的な感動とか、今年のベスト1!とか、そういった華々しい形容は似合わない作品だか、私にとって、大切な作品のひとつとなったことは間違いない。

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