[感想]心とろかすような─マサの事件簿

 心とろかすような―マサの事件簿 (創元推理文庫)

心とろかすような―マサの事件簿
宮部みゆき著/創元推理文庫 お薦め度:★★★★☆

あの諸岡進也が、こともあろうに俺の糸ちゃんと朝帰りをやらかしたので! いつまでたっても帰らない二人が、あろうことかげっそりとした表情で、怪しげなホテルから出てきたのである!!――お馴染み用心犬マサの目を通して描く五つの事件。さりげなくも心温まるやりとりの中に人生のほろ苦さを滲ませ、読む者をたちどころに宮部ワールドへと誘っていく名人芸を、とくとご堪能あれ。(文庫裏表紙より)


けっ、犬が主人公だなんて、それを聞いただけでもう読む気がしないよ。
なんて、どうかそんなことを言わないでいただきたい。老若男女を問わず信じられないほどの人物描写をやってのける宮部みゆきのこと、それが犬になったからといって、決して安っぽい仕上がりではない。それどころかむしろ、徹頭徹尾犬の一人称で綴られたこの作品は、人間には出し得ない独特の視点をも取り入れている。(近所の犬・猫・カラスetc.に聞き込みをする元警察犬の姿は、なかなか微笑ましい)

で、連作短編集だ。
こてこての推理小説を求めるむきに、謎解きの部分であるいは物足りなさが残るのかもしれないが「人間の心こそが最大のミステリー」と言う著者独特のストーリー展開に慣れているファンなら、これぞ宮部ワールド!と思える温かさが満ちている。(うぉ?、こうして書いているうちに、どんどん誉めたくなって来た(笑))

久しぶりにデビュー当時の宮部作品を彷彿とさせる出来だなぁ、なんて思いながら最後の初出一覧を見たら……。どれもこれもデビュー間もないころに発表された作品でありました(^^;) それでもこの短編集の中で私が一番気に入ったのは、書き下ろしの「マサ、留守番をする」だ。

奇妙な英語まじりの言葉をしゃべる(もちろん動物が理解できる言葉と言う意味でね)カラスのアインシュタイン、自分が不遇であることにすら気付かない犬のハラショウ、その他印象深い動物たちがさりげなく登場しつつ、学校のウサギ殺しを縦糸にして物語が展開していく。ラストはちょっと切ないが、そこは宮部みゆきのこと。決して、読後感は悪くない。

宮部作品を読むたびに、心に浮かぶ言葉がある。「性善説」だ。主人公のマサは賢く思いやりのあるやさしい犬だし、宮部作品そのものも、とことんやさしくそして温かい。殺伐とした世の中だからこそ、時にはこんな作品で温まりたい。