[感想]横道世之介/吉田修一

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お薦め度:★★★★☆

普通の大学生の普通の1年間なのに、最後まで目が離せない

単行本の時から文庫本になるのを待っていた作品です。で、やっと文庫化!と思ったら、国内でKindleが発売されることが決まり、なんだかんだで今回Kindle版で読むことと相成りました。

ひとことで言ってしまえば、大学進学のために上京した「横道世之介」の1年間を綴った作品です。大学生らしく、恋あり、バイトあり、サークル活動あり、そしてちょっとした事件ありと、ごくごく普通の日常です。

と書いてしまうと、平々凡々な退屈な物語と思われてしまうかもしれませんが、あまりにも普通すぎということは、逆にそこに普遍性のようなものが生まれるようです。読んでいる最中も、自分の経験とドンピシャで重なるわけではないまでも、

大学時代ってそんな感じだったよねぇ。

と近頃あまり意識することのなかった若かりし頃の想い出が、記憶の表面にふんわりと浮かんで来ました。

けれど、それだけに終わらないのがこの「横道世之介」。

作中の登場人物たちの20年後が、作中のところどころに挟み込まれているのです。

20年後……。これはもう、紛れもない現実です。どこかふわふわとしていた大学生時代とは、まったくもって違います。

この20年後が挟み込まれることで、せっかく物語の中に引き込まれていた自分自身の意識が、ふっと現実に引き戻されるようで、作品を読み始めた最初の頃は、この部分はいらないんじゃないのか?などと思ったりもしたのですが、最後まで読んだらわかりました。

この20年後があるからこそのインパクト。

この20年後があるからこそのリアリティ。

そして、この20年後があるからこその作品の完成度。

柴田錬三郎賞受賞も伊達ではありません。

青春小説なんて甘っちょろすぎるという方にもお薦めの1冊です。

 

ちなみにこの作品は、高良健吾と吉高由里子の主演で映画化され、2013年2月23日に公開予定だそうです。

 

世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるだろうかと、ふと思う。たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる。