[感想]告白/町田康

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告白
町田 康 著/中公文庫
お薦め度:★★★★☆

人はなぜ人を殺すのか―。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。(文庫裏表紙より)


850ページという長さが気にならないほどの快作

あまりの分厚さに、読み終えるのに2~3週間かかるのではないかと思っていたら、わずか5日で読み終えてしまいました。町田康さんの独特の文体に引き寄せられるようにして、うんうん、それから、それから……とページをめくっていたら、あっという間にラストにたどりついていたのです。

本作は実際に起きた大量殺人事件をモチーフにしているため、読み手は最初の段階から主人公の熊太郎とその兄弟分の弥五郎が殺人を犯すであろうことを知る形になります。百姓の仕事もせず、博打にあけくれ、借金ができると親に肩代わりをしてもらっている熊太郎のその自堕落ぶりを見るにつけ、当初は突き放すかのような、あるいは諦めにも似たような気持ちでその成り行きを見ていました。

しかし物語が進むにつれ、熊太郎の人となりがじわじわとあぶり出されて来ます。本人が「思弁的」と語る熊太郎は、頭の中で思っていることと口にする言葉がどうにも同じにならないと悩みます。熊太郎の行動は、自堕落というよりはむしろ、あまりにも自分自身に率直で、だからこそ世間の常識からずれてしまっているだけだったのです。

そう気づいて以降、引き返すなら今だよ。今ならまだ間に合うよ!と熊太郎に向かって何度心の中で叫んだことでしょう。殺人を犯してしまうという結末は分かっているというのに。

町田康さんの軽妙な文体が功を奏して、重いテーマにもかかわらず、作品自体は決して暗くはありません。意図的なお涙ちょうだいシーンもなければ、ことさら作品のテーマを意識させるような文章もありません。教訓的な言葉ももちろんありません。

それでも何かを考えさせられる。その「何か」は万人共通の「何か」ではなく、読む人それぞれの心のあり方によっていかようにでも変化する「何か」であるように思います。

私自身はこの作品を読みながら、ふとはるか昔の就職活動中のことを思い出しました。面接官に「あなたの長所は何ですか」と問われ「嘘も方便の嘘もなかなかつけないような正直な性格です」と胸をはって答えたところ「嘘をつけないというのは、ビジネスにおいては最大の欠点ですよ」と言われた、その時の光景です。

みなさんの光景は、どのようなものになるのでしょうか。一読をお薦めします。