[感想]夜の国のクーパー/伊坂幸太郎

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夜の国のクーパー
伊坂 幸太郎 著/東京創元社
お薦め度:★★★★☆

この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない――。これは猫と戦争と、そして何より、世界の理のおはなし。どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、10作目の書き下ろし長編。(Amazon.co.jpより)


手探り状態でふわふわと読み進んで行くと、ラストにキリリッとしまる爽快感

前作の「PK(→感想はここ)」が今ひとつ乗り切れなかったので、期待半分、不安半分で読み始めた本書です。

「鉄国」に戦争で負けたとある小さな国。その国に暮らす猫のトムが語り手となって物語は進行していきます。

鉄国に侵略された小さな国の人々の不安と混乱。猫のトムが国の外で出会う仙台の港から舟で流れついた妻に浮気された男。杉の木の怪物クーパーと、その怪物退治のためにかつて派遣されたクーパーの戦士たち。

猫のトムによって、これらの出来事が丁寧に語られて行くのですが、その丁寧な語りとは裏腹に、物語にはどこか安定感がなく、ふわふわとした感触が常につきまといます。話の流れがわかるようでわからないもどかしさ。けれどそのもどかしさが、ページをめくる原動力ともなって、少しずつ、確実に、物語の核心へと近づいて行きます。

そうして、たどりついた結末。

すべての伏線がギュッとキレイに凝縮され、物語の全貌が目の前に広がった時、それまで感じていた閉塞感のようなものが一気に払拭され、心地よい爽快感に包まれるのです。

物語そのものには、これといった強いメッセージ性はありません。けれどもそれが、逆に読む人によっていかようにも解釈できる余地ともなっていて、そこから様々な社会風刺を読み取ることが可能です。

個人的には、猫のトムの

出かけたら、ちゃんと帰る。そういうものだろう

の言葉にぐっと心を動かされました。

ファンタジーというよりは寓話、寓話というよりは人々へのエール、人々のへのエールの向こうに見え隠れする社会への冷静な視線。猫たちの愛らしさがいつまでも頭の中でグルグルと回る、素敵で愛おしい作品です。お薦め♪