[感想]国銅 上・下/帚木蓬生

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国銅〈上〉国銅〈下〉
帚木 蓬生 著/新潮文庫
お薦め度:★★★★☆

歯を食いしばり一日を過ごす。星を数える間もなく眠りにつく。都に献上する銅をつくるため、若き国人は懸命に働いた。優しき相棒、黒虫。情熱的な僧、景信。忘れられぬ出会いがあった。そしてあの日、青年は奈良へ旅立った。大仏の造営の命を受けて。生きて帰れるかは神仏のみが知る。そんな時代だ。天平の世に生きる男と女を、作家・帚木蓬生が熱き想いで刻みつけた、大河ロマン。(文庫裏表紙より)


目の前で見ているかのような、臨場感あふれる奈良の時代

医療ものはどうも苦手で、ほとんど読まないで来ていたのですが、あの帚木蓬生さんが歴史物を書いていると知り、思わず手に取ってみたのが本書です。

歴史小説は数多くありますが、その舞台が奈良時代であることにまず興味を引かれました。

貧しい農家出身の主人公国人(くにと)。銅を採掘する現場で日がな一日苦役に従事する姿は、過酷そのものです。やがて奈良の大仏作りに携わるため、周防地方から都へとのぼるその道中も、都についてからの苦役も、何もかもが困難を極めます。

ともすれば読むのさえ苦痛になってしまいそうな環境でありながらも、それでも興味がつきることなく読み進められたのは、国人の聡明さとまっすぐで純真な心根、さらには悪人がいっさい登場しないその恵まれた人間関係ゆえでしょう。

悪人が登場しない作品は、ともすると作品としての深みにかけてしまうことがありますが、この作品ではその「悪人」の役を「環境・立場」が代わりに引き受けています。

読み進むにつれ、いつしか国人と同じ目線で奈良をながめるようになり、大仏建立のそのシーンは、こちらまでもが思わず息を呑んでしまいそうな、荘厳な雰囲気に充ち満ちています。

けれど、国人に感情移入をすればするほど、物語世界から抜けきれなくなって、読み終えたその時にはどっと疲れに見舞われることは必至。

そうして気づくのです。

ああこれは、浅田次郎さんの「蒼穹の昴」のような英雄譚ではなくて、『奈良の大仏造りに身を捧げ、報われずに散った男達の深き歓びと哀しみを描』いた作品だったのだな、ということに。