[感想]天使の歩廊/中村弦

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天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語
中村 弦 著/新潮文庫
お薦め度:★★★☆☆

建築家・笠井泉二は、一風変わった建物をつくりだす。それは、足を踏み入れた者が、異様な空気に酔いしれる…。老子爵夫人には、亡き夫と永遠に過ごせる部屋を、偏屈な探偵作家には、異次元に通じる家を。そして嫉妬に狂う男には、怒りを静める別荘を。その悪魔的とも言える天才の産物が、不思議世界へと誘う6話。―選考委員絶賛!第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。(文庫裏表紙より)


ミステリー色の強いファンタジー小説

1つ1つの作品は独立しているのですが、6つの短編をすべて読み終えてみると、建築家「笠井泉二」という人物の半生が鮮やかに浮かび上がってくるという、見事な構成の作品です。

その仕掛けの巧みさに、素直に感心するのですが、作品そのものにはなかなか上手く入り込むことができませんでした。

私自身がミステリーが大好きなこともあってか、ミステリー色の強い作品を読むと、どうしてもラストで整合性のある解決・理由付けのようなものを求めてしまうのです。

ですが、この作品は「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞したファンタジー作品。

途中までの、いかにもミステリーのような話の流れに気を取られていると、ラストに来てファンタジー的な解決手法に、足をすくわれるような感覚を覚えてしまいます。

そうして、ふっと冷めてしまうのです。

そんなこんなで読み進めた短編5編。そうして、最後にたどりついた6編目「忘れ川」。

これは良かったです。

今は実業家の妻となり何不自由なく生活している女性の、忘れたいけれど忘れてはならない過去。その過去の呪縛から女性を解き放つ笠井泉二の設計した別荘。

夫のキャラクターの描き方にやや雑さが見られはしたものの、読んでいるこちらまでもがふっと心が軽くなるような、まさに川のせせらぎを間近で聞いているかのような、そんな透明感のある作品です。

ああ、こんな空間にほんの10分でもいいから身をひたしてみたい。そう思ってはみたものの、別荘を建てるだけの土地もお金も持っていないことにはたと気づき。

だったら、物置になっている四畳半の空間だけでも、何とか居心地のよいものに出来はしないかと、ほんのつかの間考えてしまったというのは、ここだけの内緒のお話です。