[感想]パラダイス・ロスト/柳広司

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パラダイス・ロスト
柳 広司 著/角川書店
お薦め度:★★★★☆

大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校“D機関”。「死ぬな。殺すな。とらわれるな」―軍隊組織を真っ向から否定する戒律を持つこの機関をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが“魔王”結城は、まるで幽霊のように、一切足跡を残さない。ある日プライスは、ふとした発見から結城の意外な生い立ちを知ることとなる―(『追跡』)。ハワイ沖の豪華客船を舞台にしたシリーズ初の中篇「暗号名ケルベロス」を含む、全5篇。(「BOOK」データベースより)


短編ゆえのテンポの良さ……なんだろうなぁ

「ジョーカー・ゲーム」シリーズの第3作目。

1作目「ジョーカー・ゲーム」を読んだ時には、短編があまり好きではない私は、ぜひとも長編で読みたいものだと思ったのですが、今作を読んで気づきました。

短編だからこその、緊迫感と小気味良い展開なのだろうな、と。

5つの短編集が収められている本作は、最後の2編が「暗号名ケルベロス 前篇」「暗号名ケルベロス 後編」と珍しく中編の体をなしていたのですが、期待ほどには面白いと感じることができませんでした。

長くなってしまった分、いつもの切れ味がそがれてしまったのかもしれません。

残りの3編はそれぞれに違った持ち味でありながら、1ページで、1段落で、あるいはたったの1行で、今まで見えていたものとはまったく別の世界を読み手に広げてみせるという鮮やかさがそこかしこにちりばめられていて、存分に楽しむことができました。

特に3編目の「追跡」は、静的ともいえる物語の流れであるにもかかわらず、結城中佐の過去に迫る話があまりに魅力的すぎて、読んでいるうちに思わず体中に力が入ってしまったほどです。

1粒で2度おいしい、というキャッチコピーがありますが、3度も4度も5度も美味しい短編たちが、この作品の中にはそろっています。